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『スターリンの葬送狂騒曲』に見る後継者争い

スターリンの葬送狂騒曲

2017年公開の『スターリンの葬送狂騒曲』という映画を見たのだが、非常に面白かった。

この映画ではソ連の絶対的権力者ヨシフ・スターリン(1878-1953)が急死した後の、後継者争いの様子をフィクションを交えながら描いている。

騙し合い、裏切り合い、そして時には打算のもとに手を組む。

自分が権力を握るためには手段を選ばない非道な姿を見て、これこそが権力争いだと心踊る。

劇中では、スターリン批判で有名なニキータ・フルシチョフ(1894-1971)も中心的存在として登場しており、世界史を少しでも知っている人なら割と楽しめる政治風刺的な作品だと思う。 

少し話は逸れるが、この作品を見て感じたのが、権力者の後の後継者争いは強烈な権力闘争を招き、大きな混乱を巻き起こすというのは、古今東西普遍的な事象であるということだ。

 

日本と世界の後継者争い

後漢(25-220)末期の袁紹(?-202)は後継者選びで過ちを犯したとされる一人だ。

彼は明確な後継者を指名せずに死亡したことで、長男の袁譚末子の袁尚による泥沼の争いを招くことになる。

武官・文官たちもそれぞれが、袁譚派・袁尚派に属することで国は大きく分裂。

その隙を曹操(155-220)に狙われ、袁紹の全盛期には中華一を誇った程の勢力もあっという間に瓦解し、袁紹死後のわずか5年後に袁氏は滅亡の憂き目を見ている。

 

日本では織田信長(1534-1582)死後の清洲会議が有名だろう。

戦国のカリスマ織田信長明智光秀に本能寺で討ち取られ、その後、例に漏れず後継者争いが勃発する。

大きな発言力を有していた羽柴秀吉(1537-1598)と、その台頭を防ごうとする柴田勝家(1522-1583)は対立。

こうした状況下で信長の正式な後継者を定めようと開かれたのが清洲会議である。

結果としては、秀吉に軍配が上がったものの、両者は対立を深め織田勢力を二分するほどに発展した。

最終的には、秀吉が賤ヶ岳の戦いの戦いで勝家を破り信長死後の混乱を抑え、天下の覇者として名乗りを挙げていくことにになる。

 

このように権力者の後の後継者争い、中でも後継者が指名されないケースは、非常に悲惨な権力闘争を引き起こす。(※清洲会議に関しては、信長が後継者を指名していたという説もあるが)

だが、後継者を指名していたら良いかというと、それはそれで反対派閥との権力闘争を招く可能性も十分ある。

このように非常に難解な後継者問題だが、混乱を回避するための有効な手段として清(1616-1912)の太子密建が思い浮かんだ。

 

太子密建とは?

太子密建とは、清代に用いられた後継者指名の方法である。

皇帝が生前に公式に後継者を指名せず、継承者の名前を書いた勅書を印で封印した後で紫禁城の乾清宮の正面に掲げられた「正大光明」と書かれた額の裏に置き、皇帝の崩御後、衆人立会いの下でこれを開き後継者を決めるという方式である。皇帝は公開されない後継者を何度も変更することが可能であった。

(引用:wikipedia

 この方法を用いることで、皇帝は派閥に関係なく優秀な人物を後継に据えることができるし、また誰が後継者候補かも明示されていない以上、派閥争いというものが起きない。

実際、清朝では暗愚な皇帝が他王朝と比して少なかったと言われており、この制度には一定の効果があったのだろう。

 

現実的ではないが、次期内閣総理大臣を決めるのに太子密建を採用するのも面白いかもしれない。

無用な派閥争いが生まれにくく、また後継者と目される人たちも我こそが後継者だと努力するので、政治的にはプラスの要素があるように思える。

一方で、現内閣総理大臣が後継者の決定権を有するということで絶大な権力を手にすることになり、権力が暴走する危険性もあるので一概に良いとは言えないのか……?

既に絶大な権力を有している人物、例えば大企業の創業者、独裁国家のトップなどにとっては、優秀な後継を選択することで更なる繁栄を享受し、尚且つ後継決定権を有することで自分の権力を強化できる、この二つの意味で非常に有益な制度になりそうだ。

 

現代の後継者争い

ここまで後継者争いの歴史やその解決案を見てきたが、最後に現代の後継者争いについて見ていきたい。

ここで注視したいのは、習近平(1953-)とウラジーミル・プーチン(1952-)である。

両名とも、後継者は自分自身とも言われるほど、盤石な基盤を築き上げ、また権力の座から降りる気配を見せない。

後継者の候補に関しても、習近平については陳敏爾(1960-)などが一応の候補とされているが、プーチンに関しては調べたところ明確な候補とされている人物は今のところいなさそうだ。

 ただ、表に出ていないだけで水面下でポスト習近平、ポストプーチンの内部闘争は進行していると考えるのが普通だろう。

それが表面化するのはいつか?

両名とも70歳に近く、これからは特に健康リスクがついてまわる。

もしものことがあった場合は、これまでの水面下の闘争が一気に表面化し、「後継者争い」として大きな混乱を招くだろう。

任期ベースで物事を捉える必要性のある一般的な民主主義国家と異なり、中国やロシアはより大局的な目線で国家を運営できることが強みである。

しかし、一方で後継者争いが勃発すれば、それは一般的な民主主義国家では想定し得ない程の混乱を招く可能性を多分に秘めている。

今後の世界のパワーバランスの変化を読み解いていくためには、習近平プーチンの後継者について目を離せない。